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オランダの旅、戦争による傷     川前涼子


オランダの旅は不思議な旅でした。フェルデンクライスのトレーニングコースの受講と鍼治療が目的でしたが、第二次世界大戦の日本軍による虐待のカルマの解消や、ソウルファミリーとの出会いなど盛りだくさんの内容でした。オランダの人はとても親切で寛容的。居心地のいい1ヶ月でした。折しもイラク攻撃が始まってしまい、光と闇が混然とする中での生活でしたが、私の人生に於けるターニングポイントとも言える貴重な日々でした。人の心は世界中で繋がっているし、心と体は密接に関連している、戦争による傷は何十年たっても癒されないで残るーー。そんな中で、治療とは何なのか、人の心とは、魂の叫びとは何なのか、考えさせられる思いでした。 <参考-5月号原稿>

(前号より続く)オランダの旅は戦争にまつわることの多い旅でした。その中で最も印象的だったのは、インドネシア人の男性と出会ったことです。彼は75才でドイツに住み、カウンセリングの仕事でオランダに来ていました。私たちは同じ宿屋の宿泊客でした。62年前、当時13才だった彼は日本軍から虐待され、その傷が未だに傷むというのです。父親は日本軍に連れ出され、彼と家族は正座させられた上に、膝の後ろに棒を入れられ上から靴で踏みつけられて膝をこわしてしまいました。更に背中にも傷を受け、今でも寝る時に焼けるように痛むのです。そして彼は、この傷を鍼治療してほしい、と言ったのです。「日本人により受けた傷を日本人に治して欲しい。私の傷を日本人に治療させるのは、日本人に対する私の赦しだ。」と言い、「これは私のカルマだ。」とも言いました。私は正直言って、驚きたじろぐ気持ちでした。私の鍼でいったい何ができるだろうと思いました。でも、これは彼と日本人のカルマを私という器を通じて解消するということなんだろうと思い、謙虚にやらせていただこうと思いました。去年亡くなった父や、日本の神々に助けを請い、祈る思いで、ただただ無心に行ないました。翌日の夕方、帰り仕度の彼に会った時、とても喜んでくれていて、背中はまだ痛いが膝は大分いいと言ってくれました。でも私はつらいような申し訳ないような、複雑な気持ちでした。10日位たって、宿屋に電話があり、「大分いい。あなたによろしくと言ってたわよ」と聞かされて始めてホッとしました。戦争によって受けた傷は、何十年もの間消えることはなかったのです、体の傷も心の傷も....。私たち日本人はそのことをどれ位分っているのでしょうか。彼はいつか日本を訪れたいと思っているそうです。その時が日本に対する本当の赦しの時になるのかもしれません。もしできるなら、彼の話を聞く機会を持ち、少しでも多くの人に当時何があったのか、知ってほしいと思います。そして彼との新しい関係をつくる第一歩にできたらと思います。(川前) <参考-6月号原稿>

(前号より続く)戦争による傷は兵士の側にも残ります。オランダ人の友人の体験をひとつ紹介します。彼女はフェルデンクライスのプラクティショナーで、個人レッスン(F1)を行なった時のことです。クライアントはドイツ人で、頑強な体つきをした年老いた男性でした。ところが彼は、レッスンの時怯えて身を固くしていたというのです。彼は元ドイツ兵で、第2次世界大戦でオランダに侵攻した時彼らが行なったことへの罪悪感から、オランダ人に何か報復されるのではないかという恐れが心の奥底にあったのです。彼はわざわざレッスンを受けにきたにも拘わらず、オランダ人の小さな女性の前に身を委ねることができなかったのです。それは彼女にとってもショックなことでした。心の傷は侵略された側はもちろんですが、侵略した側の兵士にも深く刻まれてしまうのです。<参考-7-8月号原稿>