nawa prasad 2008


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ナワ プラサード

 
 
2008.02

 先日、伊東に遊びに行く機会があった。のんびりした、いい街だった。温泉につかり、街を散歩。仏現寺というところで、天狗の詫び状という巻物の形をしたおかしな羊羹を発見、みやげに買う。曰くを聞いてみると、その寺には、3メートルの巻物で天狗が書いたとされる、判読不能の詫び状が現存しているとか。なんでも万治元年(1656年?)、伊東近くの柏峠で天狗が悪さをして旅人を困らせているので、役人たちが、当時名僧として名高かった日安上人に天狗調伏の祈祷を依頼。上人は7日7晩、巨大な老松の元で読経を続けたところ、満願の日、天狗が現れ、勇をふるった上人が天狗の鼻を折ったところ、天狗は松の上に逃げてしまった。そこで上人は日をあらため、木こりに木を切り倒させようとする。すると天空にわかにかき曇り、一陣の風に松が揺れ、地響きをたてて倒れ、巻紙が老松の梢より舞い落ちてきたという。その後はなんの変異もなく、天狗は出没しなくなり、巻物は「詫び証文」として寺に伝えられたとか。コピー(一部)をもらったが、確かにぜんぜん読めないのである。

 それで思い出したのは、80年代初頭に私が翻訳をしていたころ。当時はワープロを持っておらず、もちろんパソコンもないので、原稿用紙だ。小さい娘を横で遊ばせながら、ちょっと仕事に没頭していた。ふと気づくと、娘が原稿用紙のますめに一字一字、何かくちょくちょ書いている。私の真似をして、黙ってずっと書いていたのである。かわいいなぁ、と、いたく感動した。(もちろんぜんぜん読めなかった)。で、思ったのだが、天狗はお坊さんの読んでいた経文を真似して書いたのではないかな? (コピーを見てね)。ああ、天狗のいた時代に行ってみたくなったよ。昭和30年代くらいまでは、いたのではないか....。(ゆ)

2008.04

 桜が咲いた! そうだ、母を誘って、弁当もつくって、近くの善福寺公園まで夜桜を見にいこう。木曜日はオフ。朝から弁当になにを入れようかあれこれ、考える。家事をしながら、イヌを撫でながら、弁当のことばかり。けっきょく、乾燥貝柱をもどして米をたき、青のりもかけて、おにぎりをつくる。他には、娘も来るからブロッコリと牛肉の甘辛煮、たけのこも近くの八百屋で買い、下茹でして、ワカメと焚いた。他にはきのうのさつま芋とりんご煮、サラダは夏みかん+ベビーリーフ+赤ピーマン+生湯葉、と豪華になった。お重につめ、娘が帰ってくるのを待つ。デザートにはお菓子も用意。たいして飲めないがワインとお茶も。

 娘の帰りが遅かったので、公園についたのは9時すぎ。平日の夜遅くは、いくら7分咲きの桜の下でも、人はあまりいない。遠くに大きな宴会、近くのベンチにカップルのみ。少し寒い。照明があたっていないので、桜はほとんど白色に見える。でも、きれい!! 夢のようだった。母が、桜の妖艶さについて何か言ったようだったが、私は、ピクニックは世界中の人たちがやってきたのかしら、チベットの人も好きそう。米国人も好きだ。そうだ、外で食べるのは、なにか特別な楽しさがあるなぁ、とひとりごちていた。娘はそのすきにどんどん平らげていく。イヌもわんわん欲しそう。それぞれ、満腹になって、お茶を飲む(イヌはなし)。帰り道は池の周りを桜を見ながらゆっくり帰った。あと何回、こんなことができるだろうか。今の今、それはほんとに、はかない。でも、だから、幸せかもしれなかった。(ゆ)

2008.06

 私には娘が二人いるが、ついに一人が出て行き、もう一人も半家出状態。子育ては終焉だ。その解放感はすごかった。なにしろ、家が広くなったのである。今までは居間で寝ていたが、晴れて個人の寝室があるのである。それに時間にも縛られなくなった。なんだ独り者のみなさん、こんなに自由だったのね! お母さんという役割が外され、まだ本屋という役割があるが、でも I am nobody! の心境である。

 三人揃って家で食事することが最近あった。そのときの娘たちの話題は、妊娠について。『男の子・女の子の産み分け法』(主婦の友社刊)という本があることを私は忘れていたが、二人とも「お母さんの店で」それを手にとって読んだことがあるという。なにっ。(私は読んでない)。二人はそれから、排卵日にすぐ近い日にすると男の子だとか、そうでもないと女の子だとか、きゃっきゃ、楽しそうである。私は二人の健全さに目が眩みそうであった。これをもっても、私の役目は終了である。もう何も言うことはない。

 本屋を継いだとき、まだ二人が小さくてどこへも行けないから、という理由も(!)あったのであった。その理由がなくなった今、なぜ続けているのかな、と思う。おばあさんになってもやっているだろうか。今度こそ、世のため人のため、と言えるかしら。自分の動機をもう一度考える時期に来ているようだ。(ゆ)

2008.08

 7月末、東中野・ポレポレ坐の「受難と祈り、チベットを知る夏」の一夜。中国で獄中33年を過し、アムネスティのおかげで釈放されたという、パルテン・ギャッツオ師のお話はすごかった。28歳から61歳まで、である。一緒に逮捕された六千人のうち、生き残ったのはたった三百人。飢えや拷問(ここに書きたくない、本当にひどいものばかり)、強制労働、それに耐えぬいた精神力。13歳から仏教の修行をしていたので、トンレンという、悪いものを吸い込んでよいものを吐き出すという瞑想が役に立った、とのことであった。

 今回の日本の旅では、広島を訪れたが、ケロイドの人も見なかったし爆心地も緑が茂っていて、復興がすばらしい、日本人はすばらしい、とおっしゃって、1945年、チベットの人たちが、ヒロシマ・ナガサキのニュースを聞いて、お祈りを捧げたことを話してくださった。ギャッツオ師は1932年生まれだが、彼の世代のチベット人ならみな知っていることだそうである。だから今度はチベット人を助けてください、と話を終えられた。

 なんだか私は胸打たれた。それで思い出したのは、イラン・イラク戦争のとき(1985年)、外国人がみな自国の飛行機で逃げて、テヘランの日本人200余名が逃げ遅れたそうだが、トルコ航空が飛んで来て助けてくれた話。トルコでは、1890年に、オスマン帝国の軍艦エルトゥール号が和歌山沖で遭難、日本人が難破したトルコ人を救った話は教科書に載っているくらい、知られた話だそうである。そのお礼ということらしかった。

 そういう助けあいなら、いくらしてもいいではないか。足のひっぱりあい、競争、疑心暗鬼、そんなものは小さなこと。困ったときは助け合う、それが仁義、の世の中にもどりたい、もどしたい、と暑い夜に思った。 

2008.10

 ようやく秋が来た。長かった夏。3階の書店の前の鉄扉に、ディスプレイとして、布で動く月をつくってみた。8月の半ばに完成。その日から、毎日裏返して、その日の月の形を飾るようになった。その布の月を見ているうちに、一日一句が儀式のようになった。一部紹介してみると、

 半月や なんともいいね 半々で

 宵月は ほんのすこし はらふくれ

 立秋は 暦だけかな 更待月

 雨霞み 雲のまにまに 下弦の月

 雨あがり 空にすんなり 有明月

 夏終らん 向こうの端に 暁月

 ひとめぐり 雨風吹いて 晦日月

 新月の 云うこと聴いて やり直し

 二日月 グレゴリオ暦と ずれてきた(これは解説がある: 8月は新月が1日だったので、旧暦の数え方と西洋暦が偶然一緒だったが、8月31日が新月なので、9月1日は.....)

 三日月の 光を浴びて ふりかえり

 弓張るや 夏のおもみは とんでゆけ

 すこしずつ 秋になりぬる 九夜月

 十三夜 涼しさあつさ 六四か

 満月の 光を浴びて みなうさぎ

 と、楽しかったなぁ。月とともに生きた夏であった。旧暦で暮らすとほんとにゆっくりできる!!(ゆ)

2008.12

 今夜は新月だ。新月は 心おきなく 涙して と、うたってみた。涙と喜びは似ていると思う。大きく心が動くとき。思いついて、周囲の人たちに今までいちばん嬉しかったことを聞いてみた。

 数年前スケッチブックに、手がすらすらと、終始楽しく描けたこと。 美大生(わ)

 えー?!? 何だろう……疲れてぐっすりたっぷり寝た時、美味しいもの食べた時、結局生まれた時、でしょうか....(ひ)

 初めてバルタザールで、自分で作った一品にお客さんがおいしい、と言ってくれたこと。(カイ)

 絶対無理〜っ!と思ってたウエディングドレスを作ることができたー!です。(ま)

 気功に興味があって34歳で初めて中国に行って、そこにあったもの・こと・環境も含め、すべてから”よく来たね”と言われたような気がしたこと。(みわ)

 嬉しかったことはたくさんあります。いちばんはどれか、というと、いつもわからなくなってしまいます。そのときはそれがうれしい。うれしさもいろいろだけど、それぞれあじがある。すいません。選べません。(う)

いっぱいあるけど、個人的には、舞踏を踊ったとき、近所のおばあちゃんが「私は神を見た、お賽銭がなくてすまない」と、翌日さざえでつくったロウソク立てを持ってきてくれたことかなぁ。(み)

 あのさ、私はもう年輪を経たから、かくべつ嬉しいこともないけど、落ち込むこともない。(久)

 ちなみに年齢順でした。ふむ。もっとたくさんの人に聞いてみたいな。(ゆ)

 

この文章は紙版「ほびっと村学校かわらばん」の編集後記です。ナワプラサードの高橋ゆりこによって書かれました。

 

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